ケィオスの道具としての数学

科学技術への入り口として,数理を解説したいと思います.

【微分方程式のちょっとした理屈】(1)線形性と特性方程式と重ね合わせ:線形微分方程式と線形差分方程式の解

時系列解析の応用的な論文で「非線形」という用語が使われることがあります.非線形というのは,線形でないという意味です.医学・生理学,医工学分野などの応用分野では,「非線形性」が印象だけで使われていて,意味が崩壊しているような感じがします.ということで,今回は微分方程式と差分方程式の「線形性」について説明します.とはいえ,数学的な部分を追求しても意味がないので,実用上の便利さを見るために微分方程式と差分方程式の特性方程式とからめて説明します.

線形性

 大学のテストで,「演算子Lの線形性を示せ」と言われれば,

abを定数,f(t)g(t)Lの演算がはたらく関数として,

 L \left[ a f(t) + b g(t) \right]= a \left[f(t) \right]+b \left[g(t) \right]

が成り立つことを示します.

つまり,テストでは,この左辺から出発して,右辺の形になるよ~,と答えに書きます.この線形性の関係は微分積分をするときに,みなさんが自然に使っているものです.

 例えば微分について,演算子を,

 L \left[f(t) \right]= \frac{d}{dt} f(t)

と書けば,

 \begin{eqnarray} L \left[a f(t) + b g(t) \right] &=& \frac{d}{dt} \left( a f(t) + b g(t) \right) \\
&=& a \frac{d}{dt} f(t) + b \frac{d}{dt} g(t) \\
&=& a L \left[ f(t) \right]  + b L \left[ g(t)  \right] \\
 \end{eqnarray}

となるので線形です.微分では,定数部分はそのままくっつけておいて,項ごとに公式を使うことができるのが,線形性です.

 だから何?これが何の役に立つの?

と思うかもしれません.

線形性と重ね合わせの原理

 線形性からいえることの一つに「解の重ね合わせの原理」があります.

線形演算子Lを使った方程式

 L \left[f(t) \right]= 0

があるとします.このとき,f_1(t)f_2(t)がこの方程式の解であれば,c_1c_2を定数として,

 c_1\, f_1(t) + c_2\, f_2(t)

も解です.

 なぜなら,

  \begin{eqnarray} L \left[c_1\, f_1(t) + c_2\, f_2(t) \right] &=& c_1 L \left[ f_1(t) \right]  + c_2 L \left[ f_2(t)  \right] \\
&=& c_1 \cdot 0  + c_2 \cdot 0 \\
&=& 0
 \end{eqnarray}

になるからです.この計算では,f_1(t)f_2(t)は解なので, f_1(t) = 0 f_2(t) = 0であることを使いました.こんなこと,当然と感じられれば,以下の話も納得できると思います.

定数係数の線形微分方程式の分解

 ここでは,簡単な例として,定数係数の2階線形同次微分方程式を考えます.つまり,abが定数である.

 \frac{d^2}{dt^2} x(t) + a \frac{d}{dt} x(t) + b x(t) = 0

の解 (一般解)を計算します.

 ここで,微分演算子Dで表すことにします.ここでは,大括弧をなくして

  \displaystyle D \, x(t) =  \frac{d}{dt} x(t)

とします.そうすると,

 \begin{eqnarray} \frac{d^2}{dt^2} x(t) + a \frac{d}{dt} x(t) + b x(t) &=& 0 \\
D^2 x(t) + a D x(t) + b x(t) &=& 0\\
\left( D^2 + a D + b \right) x(t) &=& 0\\
 \end{eqnarray}

と書くことができます.この式のD^2 + a D + b部分で,Dを変数\lambdaに置き換えた形の式

 \lambda^2 + a \lambda + b = 0

は,特性方程式と呼ばれたりします.

 今回は,話を簡単にするために,この特性方程式が,2つの異なる実数解\lambda_1\lambda_2をもつ場合のみ考えます.つまり,

 \begin{eqnarray}\lambda^2 + a \lambda + b &=& \left(\lambda- \lambda_1\right) \left(\lambda- \lambda_2\right)
 \end{eqnarray}

因数分解できる場合です.このことを使えば,(D=d/dtだったことを思い出してください)

 \begin{eqnarray} \frac{d^2}{dt^2} x(t) + a \frac{d}{dt} x(t) + b x(t) &=& 0 \\
\left( D- \lambda_1\right) \left( D- \lambda_2\right) x(t) &=& 0\\
\left( \frac{d}{dt} - \lambda_1\right) \left(\frac{d}{dt}  - \lambda_2\right) x(t) &=& 0\\
 \end{eqnarray}

となります.この微分方程式の解は,x(t)=0でも,\left( \frac{d}{dt} - \lambda_1\right) =0 (こんな式,そもそもおかしい)でもないので,

 \begin{eqnarray} \left( \frac{d}{dt} - \lambda_1\right) x(t) &=& 0
 \end{eqnarray}

あるいは,

 \begin{eqnarray} \left( \frac{d}{dt} - \lambda_2\right) x(t) &=& 0
 \end{eqnarray}

となる,x(t)を見つけられれば,これが微分方程式の解になります.

 ということで,解いてみると,

 \begin{eqnarray} \left( \frac{d}{dt} - \lambda_1\right) x(t) &=& 0 \\
 \frac{dx(t)}{dt} - \lambda_1 x(t)  &=& 0 \\
 x(t)  &=& C_1 e^{\lambda_1 t} \quad (C_1は定数)
 \end{eqnarray}

もう一つの解は,

 \begin{eqnarray} x(t)  &=& C_2 e^{\lambda_2 t} \quad (C_2は定数)
 \end{eqnarray}

解が2つ求まりました.ここで考えている微分方程式に含まれている演算を

 \begin{eqnarray} L[x(t)] &=& \frac{d^2}{dt^2} x(t) + a \frac{d}{dt} x(t) + b x(t)
 \end{eqnarray}

とすれば,これは線形になっているので,重ね合わせの原理が使えます.

 ということで,微分方程式の一般解は,2つの解を線形結合して,

 \begin{eqnarray} x(t)  &=& C_1 e^{\lambda_1 t} + C_2 e^{\lambda_2 t} \quad (C_1,C_2は定数)
 \end{eqnarray}

となります.

 定数係数の線形微分方程式の解き方として,x(t)=e^{\lambda t}を解として仮定して代入すると,覚えている人も多いと思います.この場合,複数の\lambdaの解 (根)が出てきますが,一般解は,それらを重ね合わせたもの (線形結合したもの)になります.n階の線形同次微分方程式は,n個の独立な基本解をもち,一般解はそれらの線形結合になります.

定数係数の線形差分方程式の特性方程式

 今回は,微分方程式から入りましたが,説明したかったのは差分方程式です.ここでは,定数係数の2次線形差分方程式

 x[n] + a x[n-1] + b x[n-2] = 0

を考えます.これには,何の演算子もないけど?と思うでしょう.

 そこで,ラグオペレータ (後方シフト演算子) Lを導入して (ラグオペレータについては参考記事参照),

 \begin{eqnarray} x[n] + a x[n-1] + b x[n-2] &=& 0 \\
x[n] + a L x[n] + b L^2 x[n] &=& 0 \\
\left(1 + a L + b L^2 \right) x[n] &=& 0 \\
 \end{eqnarray}

と変形します.この式の1 + a L + b L^2 部分で,Lを変数\lambdaに置き換えた形の式

 1+ a \lambda + b \lambda^2 = 0

は,特性方程式と呼ばれたりします.

 今回は,話を簡単にするために,この特性方程式が,2つの異なる実数解\lambda_1\lambda_2をもつ場合のみ考えます.つまり,

 \begin{eqnarray}1+ a \lambda + b \lambda^2 &=& \left(1- \frac{\lambda}{\lambda_1}\right) \left(1- \frac{\lambda}{\lambda_2}\right)
 \end{eqnarray}

因数分解できる場合です.このことを使えば,

 \begin{eqnarray}  x[n] + a x[n-1] + b x[n-2] &=& 0 \\
\left(1 + a L + b L^2 \right) x[n] &=& 0 \\
\left(1- \frac{L}{\lambda_1}\right) \left(1- \frac{L}{\lambda_2}\right) x[n] &=& 0 \\
 \end{eqnarray}

と変形できます.この差分方程式の解は,x[n]=0でも,\left(1- \frac{L}{\lambda_1}\right) =0 (こんなの意味不明)でもないので,あり得るのは,

 \begin{eqnarray} \left(1- \frac{L}{\lambda_1}\right)x[n] &=& 0
 \end{eqnarray}

あるいは,

 \begin{eqnarray} \left(1- \frac{L}{\lambda_2}\right) x[n]&=& 0
 \end{eqnarray}

となるケースです.

 解いてみると,

 \begin{eqnarray} \left(1- \frac{L}{\lambda_1}\right)x[n] &=& 0 \\
x[n]- \frac{L}{\lambda_1}x[n] &=& 0 \\
x[n]- \frac{1}{\lambda_1}x[n-1] &=& 0 \\ 
x[n] &=& \frac{1}{\lambda_1}x[n-1] \quad (等比数列になってる)\\ 
x[n] &=& C_1 \left( \frac{1}{\lambda_1} \right)^n \quad (C_1は定数) 
\end{eqnarray}

もう一つの解は,

 \begin{eqnarray} x[n] &=& C_2 \left( \frac{1}{\lambda_2} \right)^n  \quad (C_2は定数)
\end{eqnarray}

です.差分方程式でも,上で考えた微分方程式と同じく,2つの解があるようです.元の式に代入してみると,正しいことが確認できます.

 ここで考えている差分方程式に含まれている演算を

 \begin{eqnarray} L[x [n]] &=& \left(1 + a L + b L^2\right) x [n]
 \end{eqnarray}

とすれば,これは線形演算子になっているので,またまた,重ね合わせの原理が使えます.

 ということで,一般解は,

 \begin{eqnarray} x[n] &=& C_1 \left( \frac{1}{\lambda_1} \right)^n + C_2 \left( \frac{1}{\lambda_2} \right)^n  \quad (C_1,C_2は定数)
\end{eqnarray}

になりそうです.C_1C_2は,初期条件 (x[0]とか,x[1]とかの値)が,与えられれば決めることができます.

ということで,線形性と重ね合わせの原理について,理解できたでしょうか.

【複素関数の積分】(2)留数定理

今回は留数定理です.留数定理を知っておいてほしい理由は,自己回帰過程の分解の計算に使うからです.留数定理では,下図のように周回積分する単一閉曲線Cの内側に,特異点と呼ばれるトゲや穴z_1z_2z_3が複数ある場合を扱えます.

複素平面にある特異点のイメージ (実際は実部と虚部それぞれに値があるので一つの図で表せない).単一閉曲線Cの内側に,特異点z_1z_2z_3がある場合.

基本事項の確認

 前回紹介した複素積分のポイントは,下図のように,周回積分する単一閉曲線Cの内側に,特異点と呼ばれるトゲあるいは穴z_0が一つあるかどうかです.トゲと穴は,それぞれ,無限とマイナス無限までのびています.私は,下図右の絵のような穴を感じるので,落ちてしまいそうで怖いです (実際はプラスのとき上向きに発散するトゲで,マイナスのとき穴です).それと,周回積分で回る方向は,反時計回り (内部を左側にするまわり方)です.なぜなら,陸上ではトラック左周りが世界のルールです (複素積分とは関係ありません).

積分経路の内側に穴があるかどうか

1.周回する内側が全部正則 (穴なし)なら周回積分はゼロ

関数f(z)は,単一閉曲線Cとその内部を含む領域で正則であるとする (上図左).このとき,

 \displaystyle \oint_C \! f(z) \, dz = 0

2. 周回する内側に穴 (特異点)があれば,その値を分子に代入する感じ

積分経路の中に穴z_0 (分母が0になる特異点)があれば (上図中),積分は分子の部分にz_0を代入するだけで求まっちゃう:

 \displaystyle \oint_C \frac{f(z)}{z-z_0} \, dz = 2 \pi i f(z_0)

積分経路の中に穴z_0 (特異点)があって,それがn乗でより深くなっていれば,(n-1)微分を繰り返してから,z_0を代入するだけで求まっちゃう:

 \displaystyle  \oint_C \frac{f(z)}{(z-z_0)^{n}} \, d z = \frac{2 \pi i}{(n-1)!} f^{(n-1)}(z_0)

留数定理を理解する一歩手前

 下図左のように,単一閉曲線Cの内側に3つの穴があるとします.

周回積分の分割

このとき,単一閉曲線Cについての周回積分は,3つの穴のまわりを回る,周回積分に分割できます.

  \displaystyle \oint_C f(z) \, d z = \oint_{C_1} f(z) \, d z + \oint_{C_2} f(z) \, d z + \oint_{C_3} f(z) \, d z

なぜかは,上図の右のような周回積分を考えれば説明できます.切り込みの出入は積分経路が逆になっているので,積分は符号が逆になり,和をとるとゼロになります.ですので,基本事項1 (コーシーの積分定理)を使って,

  \begin{eqnarray} \oint_{C-C_1-C_2-C_3} f(z) \, d z &=& 0 \\
\oint_{C} f(z) \, d z -\oint_{C_1} f(z) \, d z - \oint_{C_2} f(z) \, d z - \oint_{C_3} f(z) \, d z &=& 0 \\
\oint_C f(z) \, d z &=& \oint_{C_1} f(z) \, d z + \oint_{C_2} f(z) \, d z + \oint_{C_3} f(z) \, d z
\end{eqnarray}

が成り立つことが分かります.上図右の経路では,C_1C_2C_3が逆回り (右回り)になっていることに注意してください.

 一般に,n個の穴があるとき,

 \displaystyle \oint_C f(z) \, d z = \oint_{C_1} f(z) \, d z + \oint_{C_2} f(z) \, d z + \cdots +\oint_{C_n} f(z) \, d z

となります.

留数って何?

 これは,表現を楽にするための記述に過ぎません.f(z)積分する閉曲線の内側に,穴 (特異点) z_0を持てば,その点での留数を{\rm Res} \, f(z_0)で表し,

  \displaystyle \oint_C f(z) \, d z = 2 \pi i  \,  {\rm Res}  \, f(z_0)

とします.ここでは,基本事項にある被積分関数の分母が,f(z)に含まれていることに注意してください.基本事項の積分と注意深く見比べてやれば分かりますが,

穴 (特異点)が1乗のとき (「1位の極」といいます),

 \displaystyle {\rm Res} \,  f(z_0) = \lim_{z \to z_0} \left[(z-z_0) \,  f(z)\right]

となります.

 穴 (特異点)がn乗のときは,教科書を見てください.私の目的,「自己回帰過程の分解のための説明」では,ここまでで十分です.

留数定理

 ということで,留数定理では,

f(z)積分する閉曲線Cの内側に,穴 (特異点)

 z_1, z_2, \cdots, z_n

をもっている場合は,

 \displaystyle \oint_C f(z) \, d z = 2 \pi i  \sum_{j=1}^{n}  {\rm Res}  \, f(z_j)

となります.Cの内側で,正則とか,連続とか,そういう条件も必要です.

【複素関数の積分】(1)複素積分で覚えておきたいポイント

複素積分について勉強したでしょうか.私は数学者ではありませんが,昔,ある大学で,線形代数とか,複素関数論とか,数学の基礎科目の講義を一通り担当していました.毎週6~7コマ担当なので,結構疲れて,肩が痛かったです.その当時は,お前の仕事は講義と大学の雑用で,お前の研究成果なんて誰も評価しないぞ,というような環境でしたが,研究は好きだったので細々と続けていました.ということで,昔作成した図を使って,今回は複素積分で印象に残しておいてほしいポイントをまとめます.

点Pから点Qまでの線積分

複素積分

 関数 f(z) = u(x, y) + v(x, y)\, iと曲線C: z = z(t) = x(t) + i y(t) (a\, \le \, t \,\le \, b)を考える.このとき,f(z)の曲線Cに沿っての複素積分は,

\begin{eqnarray}
\int_C \! f(z) \, dz &=& \int_C \! \left\{u(x,y) + v(x,y)\, i \right\}(dx + dy \, i) \nonumber \\
&=& \int_C \! (u \, dx - v \, dy) + i \int_C \! (v \, dx + u \, dy) \nonumber
\end{eqnarray}

です.u(x, y)とかv(x, y)積分は上の図でイメージしてください.要は,線積分の寄せ集めです.

不定積分が存在するときの積分

 ここから,ラフに説明していきます.「不定積分が存在するとき」というのは,積分したい関数f(z)に,

 \displaystyle \frac{d F(z)}{dz} = f(z)

となる相手F(z)がいるときです.高校で習う積分の公式があるようなときです.積分経路を含む領域で正則だったら,その領域で,積分積分経路によらず,端の点の値だけできまります.正則というのは,その点で微分できると言うことです.コーシー・リーマンの方程式が何かも知っておいてください.

複素平面上の領域D内に曲線Cをとり,その始点と終点をそれぞれp, qとする (下図).このとき,D内で正則な関数f(z)不定積分F(z)が存在すれば,

 \displaystyle \int_C \! f(z) \, dz = F(q) - F(p)

不定積分が存在する場合は,実数の積分のように,積分の公式を使って出発点pと終点qの値を代入すればいいんです.

コーシー (Cauchy)の積分定理

 ここから単一閉曲線での積分です.「単一」は自分に交わらない,「閉曲線」はぐるぐる何周でも回れるようにつながっているということです (下図).例えば,円です.いつも左周りが正の向きです.

単一閉曲線とそうじゃないやつ

 まずは,計算せずに答えを0と書ける,お得なパターンです.

関数f(z)は,単一閉曲線Cとその内部を含む領域で正則であるとする (下図).このとき,

 \displaystyle \oint_C \! f(z) \, dz = 0

単一閉曲線の積分経路.内部に穴がある (分母が発散する)かどうかを確認してください.穴がなければ,コーシーの積分定理が使えます.

 以下のような問題に出会ったら,答えは0だと,3秒以内に気づいてください.

問題 Cを任意の単一閉曲線とするとき,次の積分を求めよ.

 \displaystyle (1) \  \oint_C \! z^3 \, dz, \qquad (2) \  \oint_C \! e^{iz} \, dz \qquad (3) \  \oint_C \! \sin z \, dx

周回積分積分

 周回積分積分経路を変えられるという話です.証明は,下の図のように経路を切ってみるという,気づければ意外と簡単なやつです.

経路を切ってコーシーの積分定理を使うと証明できる

領域Df(z)は正則関数であるとする.D内に2つの単一閉曲線C_1, C_2があり,C_2C_1の内部にあるとする.さらに,C_1, C_2で囲まれた領域は,領域Dに含まれているとする.このとき,

 \displaystyle \oint_{C_1} \! f(z) \, dz = \oint_{C_2} \! f(z) \, dz

コーシーの積分表示 (コーシーの積分定理)

 被積分関数に,微分できない穴 (発散する点)があるときの積分です.分母がゼロになる点は,穴とか,トゲとか,針とか,そういうイメージをもってください.ここで穴と呼んでいる点の,専門用語は「特異点」です.上で説明した性質を使って,積分経路を,穴へ縮めていけば証明できます.

f(z)は領域Dで正則であるとする.D内に単一閉曲線Cがあり,Cの内部は領域Dに含まれているとする. 点aCの内部にあれば (下図),

 \displaystyle f(a) = \frac{1}{2 \pi i} \oint_C \frac{f(z)}{z-a} \, dz

閉曲線Cの中に穴 (トゲ)があるとき.

 積分の公式的に使いたいときは,以下の印象をもっておいてください.

積分経路の中に発散する穴a (分母が0になる点)が空いていれば,積分は分子の部分に穴の値を代入するだけで求まっちゃう.

 \displaystyle \oint_C \frac{f(z)}{z-a} \, dz = 2 \pi i f(a)

 以下のような問題に出会ったら,10秒以内に答えを書いてください.

問題 Cを原点を中心とする半径2の円とするとき,次の積分を求めよ.

 \displaystyle (1) \ \oint_C \frac{1}{z-1} \, dz, \qquad (2) \  \oint_C \frac{z^2}{z-i} \, dz \qquad (3) \  \oint_C \frac{e^z}{z-10000} \, dz

グルサー (Goursat)の公式

 コーシーの積分表示で,穴がn乗のパターンです.コーシーの積分表示の両辺を微分すれば導けます.

f(z)は領域Dで正則であるとする.さらに,D内でf(z)は何回でも微分可能とする.このとき,f(z)n導関数

 \displaystyle f^{(n)}(z) = \frac{d^n f(z)}{dz^n}

 \displaystyle f^{(n)}(z) = \frac{n!}{2 \pi i} \oint_C \frac{f(\zeta)}{(\zeta-z)^{n+1}} \, d \zeta

 これも公式的に使いたいときは,以下の印象をもっておいてください.

積分経路の中に発散する穴a (分母が0になる点)が空いていて,それがn乗でより深くなっていれば,

 \displaystyle  \oint_C \frac{f(z)}{(z-a)^{n}} \, d z = \frac{2 \pi i}{(n-1)!} f^{(n-1)}(a)

 ここまでの複素積分を使いこなせれば,留数定理が成り立つことは,当然と感じられると思います.留数定理は次回です.

【ラグオペレータで高校数学を解いてみる】3項間漸化式と連立漸化式

最近,高校の数学で出てくる漸化式

 a_{n+2}=p\, a_{n+1}+q\, a_n

や,

 \left\{
\begin{array}{l}
a_{n+1} = p\, a_n + q\, b_n \\
b_{n+1} = r\, a_n + s\, b_n
\end{array}
\right.

の解き方を教える機会がありました.私にとってはかなり昔の記憶ですが,高校の数学では,公式的なパターンに変形したり,行列の形にして対角化するとかありました.ラグオペレータでも解けるので,今回はラグオペレータで解いてみます.

ラグオペレータの基本

 ラグオペレータをLとします.Lを左からかけると,時間が1だけ戻ります.つまり,

 L a_n = a_{n-1}

となります.さらに,

 L^m a_n = a_{n-m}, \quad L^{-1} a_n = a_{n+1}

となります.

3項間漸化式の例題

 高校数学で登場するような問題を考えます.例題として,

 a_{n+2}=3\, a_{n+1}-2\, a_n

で,a_{1}=2, a_{2}=3となるa_nを求めてみます.

 nを2減らして,

 a_{n}=3\, a_{n-1}-2\, a_{n-2}

としてから,ラグオペレータを使えば,

 a_{n}=3 L a_{n} - 2 L^2 a_{n}

です.さらに,変形すると,

 \begin{eqnarray} a_{n} - 3 L a_{n} + 2 L^2 a_{n} &=& 0 \\
\left(1-3L+2L^2 \right) a_{n}  &=& 0 \\ 
\left(1-L\right)\left(1-2L\right) a_{n}  &=& 0 \end{eqnarray}

となります.左辺が0になるとすれば, 

 \left\{
\begin{array}{l}
\left(1-L\right) a_{n}  &=& 0 \\
\left(1-2L\right) a_{n}  &=& 0
\end{array}
\right.

であれば良いことが分かります.ラグオペレータを使わないで表すと,この式は,

 \left\{
\begin{array}{l}
a_{n} - a_{n-1}  &=& 0 \\
a_{n} - 2 a_{n-1}  &=& 0
\end{array}
\right.

ってことです.ここから,

 \left\{
\begin{array}{l}
a_{n}  &=& a_{n-1} = a_1 = 2 \\
a_{n}  &=& 2 a_{n-1} = 2^{n-1} a_1 = 2^{n-1} \cdot 2 = 2^n 
\end{array}
\right.

と求まります.「解が2つ!」とびっくりしないでください.まだ,解ではありません.線形性から (過去の記事参照),一般解は,2つの解の線形結合になります.つまり,ABを定数として,一般解は

 a_n=A \cdot 2 + B\cdot 2^{n}

の形になります.

 初期条件 a_{1}=2, a_{2}=3を満たすように,A, Bを求めると,

  \displaystyle A=\frac{1}{2}, \quad B=\frac{1}{2}

となります.ということで,解は,

 a_n=1+2^{n-1}

です.

連立漸化式の例題

 例題として,

 \left\{
\begin{array}{l}
a_{n+1} = 3\, a_n + b_n \\
b_{n+1} = 2\, a_n + 2\, b_n
\end{array}
\right.

で,a_{1}=1, b_{1}=-1となるa_nを求めてみます.

 nを1減らしてから,ラグオペレータを使えば,

 \left\{
\begin{array}{l}
a_{n} = 3 L a_n + L b_n \\
b_{n} = 2 L a_n + 2 L b_n
\end{array}
\right.

 \left\{
\begin{array}{l}
(1-3L)a_{n} - L b_n = 0 \\
2 L a_n + (2 L -1 ) b_n = 0 
\end{array}
\right.

となります.連立方程式を解いて,b_nを消すと,

 \begin{eqnarray} \left(4L^2 - 5 L + 1 \right) a_{n} &=& 0 \\
\left(4L - 1 \right)\left(L - 1 \right) a_{n} &=& 0  \end{eqnarray}

となります.左辺が0になるとすれば, 

 \left\{
\begin{array}{l}
\left(4 L -1\right) a_{n}  &=& 0 \\
\left(L - 1 \right) a_{n}  &=& 0
\end{array}
\right.

であれば良いことが分かります.ラグオペレータを使わないで表すと,この式は,

 \left\{
\begin{array}{l}
a_{n} &=& 4 a_{n-1} \\
a_{n} &=& a_{n-1}
\end{array}
\right.

ってことです.ここから,

 \left\{
\begin{array}{l}
a_{n}  &=& 4 a_{n-1} = 4^{n-1} a_1 = 4^{n-1} \\
a_{n}  &=& a_{n-1} = a_1 = 1 
\end{array}
\right.

と求まります.ABを定数として,一般解は

 a_n=A \cdot  4^{n-1} + B \cdot 1

の形になります.

 初期条件 a_{1}=1, a_{2}=3a_1+b_1 = 3 - 1 = 2を満たすように,A, Bを求めると,

  \displaystyle A=\frac{1}{3}, \quad B=\frac{2}{3}

となります.ということで,a_{n}は,

  \displaystyle a_n= \frac{4^{n-1}+2}{3}

です.b_{n}は,

  \begin{eqnarray} b_n &=& a_{n+1} - 3 a_{n} \\
 &=& \frac{4^{n}+2}{3}  - 3 \cdot \frac{4^{n-1}+2}{3} \\
 &=& \frac{4^{n-1}-4}{3} \end{eqnarray}

まとめ

 ラグオペレータを使って高校数学の漸化式の問題を解いてみました.
ラグオペレータは,微分方程式微分演算子に対応する立ち位置にあるので,使いこなせればとても便利です.

マクローリン展開って何?

 マクローリン展開について簡単に説明します.

マクローリン展開以前の超基礎:方程式と恒等式

 【注意】方程式と恒等式の違いを知っている優秀な方々は,私の記事ではなく,他の方のマクローリン展開の解説を読んだほうが役に立つと思います.

 変数xについての方程式は,xに隠れた値を探すための条件式です.例えば,方程式

 x^2 - 5 x + 6= 0

は解くことができて,答えは, x = 2, 3です.この答えが正しいかどうかは, xに値を代入すれば確かめられます.例えば, x=2を代入すれば,

 2^2 - 5\times 2 + 6= 4 - 10 + 6 = 0

になります.

 一方で,変数xについての恒等式は,=でつながれた左右が,全く同じものになっています.つまり,「自分=自分」,「x = x」,「x^2 = x^2」です.左右が全く同じものなので,xにどんな値を代入しても,等しくなります.例えば,恒等式x^2 = x^2に,何を代入しても正しいし,両辺の微分をしても,両辺の逆数や対数をとっても,等しいままです.なぜなら,左右が全く同じものだからです.さらに,当たり前に感じる説明をつづけると,a, b, c, \alpha, \beta, \gammaを定数とするとき,

 a x^2 + b x + c = \alpha x^2 + \beta x + \gamma

が成り立つのであれば,a = \alphab = \beta c = \gammaです.また,

 a \cos x + b \sin x = \alpha \cos x + \beta \sin x

が成り立つのであれば,a = \alphab = \betaです.

 中高校生にするような説明をしましたが,

マクローリン展開の式は恒等式

です.

見た目が違うけど,多項式恒等式の関係になる

 マクローリン展開の例として,\cos xマクローリン展開を書いてみると,

 \displaystyle \cos x=1-\frac{1}{2 !} x^2+\frac{1}{4 !} x^4- \frac{1}{6 !} x^6+\cdots

になります.この式が不思議なのは,恒等式は「自分=自分」なのに,左右で見た目が全然違うことです.左辺は\cos xなのに,右辺は,無限に項が続く多項式 (x^nでできた式)です.

 具体的な数値を代入して計算する場合,無限個の項を計算できないので,右辺の多項式を途中で打ち切ったりします.xの値が0に近いときは,何乗もすると,高次の項はほぼ0なので,無視しても影響は小さいです.なので,マクローリン展開は,多項式を途中で打ち切って,近似式として使うことができます.

 私は数学者ではないので,数学的に厳密なことは完全に無視して説明すると,マクローリン展開というのは,「式を多項式で表しちゃうということ」です.ちょっと,かっこつけていうと,「x=0のまわりで多項式展開する」ということです.

 自分でマクローリン展開を計算したいときは,次の関係式を使います.

マクローリン展開

 関数f(x)マクローリン展開は,

\begin{aligned}
f(x)&=f(0)+f^{\prime}(0) x+\frac{f^{\prime \prime}(0)}{2 !} x^2+\cdots \cdots+\frac{f^{(n)}(0)}{n !} x^n+\cdots \cdots \\
&=\sum_{n=0}^{\infty} \frac{f^{(n)}(0)}{n !} x^n
\end{aligned}

です.f(x)は何度でも微分できる必要があります.

 何で上の関係が成り立つのかは,f(x)多項式恒等式になることを仮定すれば導けます.つまり,a_0, a_1, a_2, \cdotsを定数として,

 \begin{aligned}
f(x)&=a_0+a_1 x+a_2 x^2+\cdots
\end{aligned}

を仮定します.これは,恒等式なので,両辺のxに同じ値を代入しても,両辺を微分しても等しいはずです.

 まず,x=0を代入すれば,

 f(0) = a_0

になるので,a_0の部分には,f(0)が入ることがわかります.

 つぎに,f(x) = a_0+a_1 x+a_2 x^2+\cdotsの両辺を微分した,

 \begin{aligned}
\frac{d f(x)}{dx} &= a_1 + 2 a_2 x+ 3 a_3 x^2 + \cdots
\end{aligned}

に,x=0を代入すれば,

 \begin{aligned}
a_1 &= \frac{d f(0)}{dx}
\end{aligned}

であることがわかります.

 これを繰り返せば,

 \displaystyle a_n = \frac{f^{(n)}(0)}{n !}

であることが導けます.

マクローリン展開の例

 ここでは,実例として,

 \displaystyle \frac{1}{1-x}

をマクロ―リン展開してみます.つまり,上の公式で \displaystyle f(x)=\frac{1}{1-x}の場合を考えます.

 これを,繰り返し微分してみると,

  \begin{aligned}\frac{d f(x)}{dx} &=  \frac{d}{dx} \frac{1}{1-x} = \frac{1}{\left(1-x\right)^2}\\
\frac{d^2 f(x)}{dx^2} &=  \frac{d^2}{dx^2} \frac{1}{\left(1-x\right)^2} = \frac{1}{\left(1-x\right)^3}\\
\frac{d^3 f(x)}{dx^3} &=  \frac{d^3}{dx^3} \frac{1}{\left(1-x\right)^3} = \frac{1}{\left(1-x\right)^4}\\
\end{aligned}

になるので,なんとなく,

 \displaystyle \frac{d^n f(x)}{dx^n} = \frac{1}{\left(1-x\right)^{n+1}}

になりそうです (細かいことは気にしないので証明なんてしません).これに,x=0を代入すれば,

 \displaystyle \frac{d^n f(0)}{dx^n} = \frac{1}{\left(1-0\right)^{n+1}} = 1

になるので,マクローリン展開の式に代入すれば,

 \displaystyle \frac{1}{1-x} = 1 + x + x^2 + x^3 + \cdots

になります.実は,この式は,すべてのxで成り立ちません.-1 < x < 1の範囲で成り立ちます.この領域を収束半径と言います.x=1を代入すれば,発散するので,これがダメそうな雰囲気がすると思います.

収束半径

 マクローリン展開が,すべてのxで成り立たずに,x=0のまわりの領域でしか正しくないときがあります.この領域を収束半径と言います.収束半径の,説明は私には面倒なので,皆さんが複素解析を勉強したときに自分で理解してください.

大学の試験で見かける自明なマクローリン展開の問題

 私は数学者ではありませんが,ある私立大学で6年間数学を教えていたことがあります.私は出題したことはありませんが,

 「x^2+2 x + 3マクローリン展開せよ.」

みたいな問題を出す先生がいました.これは,f(x)=x^2+2 x + 3として,マクローリン展開の公式に当てはめて...,とか考えると,時間の無駄です.

 マクローリン展開した結果は,元の式と恒等式の関係になっているので,微分とか計算する必要はありません.答えとして,次数の順に並べ替えたものを書くなら,答えは,

 x^2+2 x + 3 = 3 + 2 x + x^2

です.フーリエ変換でも,似た感じの問題を出す先生がときどきいます.例えば,

 「\sin \left(2 \pi f \right) フーリエ変換せよ.」

とか.計算しなくても答えがわかります.

【微分方程式を解く】(3)1階線形微分方程式を積分因子を使って解く

今回は,1階線形微分方程式

\displaystyle{
\frac{dy}{dx} + f(x) \, y = g(x)
}

積分因子を使った方法で解きます.

 印象に残すポイントは,以下の2点です:

1.\displaystyle{
f(x)
}積分して,\displaystyle{
e
} の肩にのせたものを両辺にかける.【補足】大学生になったら,高校のときのように不定積分に定数項を書きません.そんなの省略です.

2.積の微分公式

\displaystyle{
\frac{d}{dx} \left\{ f(x) g(x) \right\} = \frac{d f(x)}{dx} g(x) + f(x) \frac{dg(x)}{dx}
}

の形を利用する.【補足】式に登場する\displaystyle{
\frac{d}{dx}
} は,右にくっついている部分を微分するという意味の記号です.私は,ダッシュ微分を表しません.

考え方

 1階線形微分方程式

\displaystyle{
\frac{dy}{dx} + f(x) \,  y = g(x)
}

を解くことを考えます.今回紹介する方法は,同次でも,非同次でも,どちらでも解けます.とはいえ,同次式は変数分離で解いた方が楽です.

積分因子の準備 上の微分方程式\displaystyle{
y
} の前にかけてある \displaystyle{
f(x)
}積分したものを,\displaystyle{
e
} の肩にのせると,

\displaystyle{
e^{\int f(x)\, dx}
}

となります.これが,「積分因子」です.

 だまされたと思って,積分因子を元の微分方程式の両辺にかけてみてください.

\displaystyle{
\begin{align}
\frac{dy}{dx} + f(x) \, y &= g(x) \\
e^{\int f(x)\, dx} \, \frac{dy}{dx} + f(x)\, e^{\int f(x)\, dx}
 \, y &= g(x)\, e^{\int f(x)\, dx}
\end{align}
}

ここで,積の微分公式をイメージしながら,左辺

\displaystyle{
e^{\int f(x)\, dx} \cdot \frac{dy}{dx} + f(x) \, e^{\int f(x)\, dx} \cdot y
}

を観察してみます.

 何が見えてきますか?

さらに,ヒントを与えると,

 \displaystyle{
e^ {\int f(x)\, dx}
}微分は,\displaystyle{
f(x) \, e^ {\int f(x)\, dx}
}

 \displaystyle{
y
}微分は,\displaystyle{
\frac{dy}{dx}
}

ということに注意してください.

 積の微分公式を使えば,積分因子をかけた左辺は,

\displaystyle{
e^{\int f(x)\, dx} \cdot \frac{dy}{dx} + f(x) \, e^{\int f(x)\, dx} \cdot y = \frac{d}{dx} \left\{ e^{\int f(x)\, dx} \cdot y\right\}
}

と変形できることがわかります.

 微分してあるものを,積分すれば元に戻りますので,この微分方程式は以下のようにして解くことができます.

\displaystyle{
\begin{align}
\frac{dy}{dx} + f(x) \, y &= g(x) \\
e^{\int f(x)\, dx} \, \frac{dy}{dx} + f(x)\, e^{\int f(x)\, dx}
 \, y &= g(x)\, e^{\int f(x)\, dx} \\
\frac{d}{dx} \left\{ e^{\int f(x)\, dx} \cdot y\right\} &= g(x)\, e^{\int f(x)\, dx} \\
d \left\{ e^{\int f(x)\, dx} \cdot y\right\} &= g(x)\, e^{\int f(x)\, dx}\, dx \\
\int d \left\{ e^{\int f(x)\, dx} \cdot y\right\} &= \int g(x)\, e^{\int f(x)\, dx}\, dx + C \\
e^{\int f(x)\, dx} \cdot y &= \int g(x)\, e^{\int f(x)\, dx}\, dx + C \\
y &= \frac{1}{e^{\int f(x)\, dx}} \left\{ \int g(x)\, e^{\int f(x)\, dx}\, dx + C \right\} \\
y &= e^{-\int f(x)\, dx} \left\{ \int g(x)\, e^{\int f(x)\, dx}\, dx + C \right\}
\end{align}
}

何かすごくめんどくさそうですが,実際の計算では,

1.\displaystyle{
f(x)
}積分して,\displaystyle{
e
} の肩にのせたものを両辺にかける.

2.積の微分公式

\displaystyle{
\frac{d}{dx} \left\{ f(x) g(x) \right\} = \frac{d f(x)}{dx} g(x) + f(x) \frac{dg(x)}{dx}
}

の形を利用する.

を手掛かりに計算をしてください.

練習問題

例題1

 実際に次の微分方程式

\displaystyle{
\frac{dy}{dx} + 3 y = e^{x}
}

の一般解を求めてみます.

 積分因子は, \displaystyle{
y
} の前にある 3 を積分した \displaystyle{
3x
}\displaystyle{
e
} の肩にのせた \displaystyle{
e^{3x}
} です.これを両辺にかければ,積の微分の形になって解けるわけです.

\displaystyle{
\begin{align}
\frac{dy}{dx} + 3 y &= e^{x} \\
e^{3x} \cdot \frac{dy}{dx} + 3 e^{3x}\cdot y &= e^{3x} \, e^{x} \\
\frac{d}{dx} \left\{ e^{3x} \cdot y \right\} &= e^{4x} \\
e^{3x} \cdot y &= \int e^{4x} \, dx + C \\
e^{3x}\cdot y &= \frac{e^{4x}}{4} + C \\
y &= \frac{1}{e^{3x}} \, \left( \frac{e^{4x}}{4} + C \right)  \\
y &= \frac{e^{x}}{4} + C \, e^{-3x} 
\end{align}
}

上の式の途中で突如出現した \displaystyle{
C
} は定数です.

検算について 答えを元の微分方程式に代入して,両辺が等しくなれば,答えが正しいということです.

 上の例題では,答え

\displaystyle{
y = \frac{e^{x}}{4} + C \, e^{-3x} 

}

微分すると,

\displaystyle{
\frac{dy}{dx} = \frac{e^{x}}{4} - 3 C \, e^{-3x} 

}

です.ということで,元の式の左辺に \displaystyle{
y
} を代入すれば,

\displaystyle{
\begin{align}
\frac{dy}{dx} + 3 y &= \left(\frac{e^{x}}{4} - 3 C \, e^{-3x} \right) + 3 \left(\frac{e^{x}}{4} + C \, e^{-3x} \right) \\
 &= \frac{4 e^{x}}{4} \\
 &= e^{x} 
\end{align}
}

となり,元の微分方程式の右辺と一致します.

例題2

次の微分方程式

\displaystyle{
\frac{dy}{dx} - 2 x y = x
}

の一般解を求めます.

 積分因子は, \displaystyle{
y
} にくっついている \displaystyle{
-2x
}積分した \displaystyle{
-x^ 2
}\displaystyle{
e
} の肩にのせた \displaystyle{
e^ {-x^ 2}
} です.これを両辺にかければ,積の微分の形になります.

\displaystyle{
\begin{align}
\frac{dy}{dx} - 2 x y = x \\
e^{-x^2} \cdot \frac{dy}{dx} - 2 x e^{-x^2} \cdot y &= x \, e^{-x^2} \\
\frac{d}{dx} \left\{ e^{-x^2} \cdot y \right\} &= x \, e^{-x^2}  \\
e^{-x^2} \cdot y &= \int x \,  e^{-x^2} \, dx + C \\
e^{-x^2} \cdot y &= -\frac{e^{-x^2}}{2} + C \\
y &= -\frac{1}{2} + C e^{x^2} 
\end{align}
}

ここで,\displaystyle{
C
} は定数です.

 また,途中の積分

\displaystyle{
 \int x \, e^{-x^2} \, dx 
}

は答えを予想して,

\displaystyle{
e^{-x^2}
}

微分して,つじつまを合わせました.

例題3

次の微分方程式

\displaystyle{
\frac{du}{dt} + \frac{u}{t} = 3t + \frac{2}{t}
}

の一般解を求めます.

 積分因子は, \displaystyle{
u
} にくっついている \displaystyle{
\frac{1}{t}
}積分した \displaystyle{
\log |t|
}\displaystyle{
e
} の肩にのせた \displaystyle{
e^ {\log |t|} = |t|
} です.「え~絶対値なの~,場合分けするの~」ということを,悩む必要はありません.積分因子は,適当なやつを一つ用意すれば良いのです.

 ということで,積分因子として, \displaystyle{
t
} を採用します.これを両辺にかければ,積の微分の形になります.

\displaystyle{
\begin{align}
\frac{du}{dt} + \frac{u}{t} &= 3t + \frac{2}{t} \\
t \cdot \frac{du}{dt} +  t \cdot \frac{u}{t} &= t \cdot \left( 3t + \frac{2}{t} \right) \\
t \cdot \frac{du}{dt} +  u &= 3t^ 2 + 2 \\
\frac{d}{dt} \left\{ t \cdot u \right\} &= 3t^ 2 + 2  \\
t \cdot u &= \int \left(3t^ 2 + 2 \right) \, dt + C \\
t \cdot u &= t^ 3 + 2 t + C \\
u &= t^ 2 + 2 + \frac{C}{t} 
\end{align}
}

ここで,\displaystyle{
C
} は定数です.

【微分方程式を解く】(2)1階線形同次微分方程式を変数分離法で解く

微分方程式を解くとき,その形の特徴を見極めることが最初の一歩です.今回は,1階線形同次微分方程式の解き方を説明しますが,この呪文「1階線形同次微分方程式」に含まれる「1階」,「線形」,「同次」の意味が分からない人や微分方程式について何も知らない人は,以下の説明を読んでください.わかる人は飛ばしてください.

今回の内容

何を求める? \displaystyle{
\frac{dy}{dx}
}とか, \displaystyle{
\frac{d ^ 2y}{dx ^ 2}
}が式の中に登場しているのであれば,解くべき変数は分子にある \displaystyle{
y
} で,これは,分母にある \displaystyle{
x
} の関数です.\displaystyle{
y
} が,\displaystyle{
x
} の関数であることを,

\displaystyle{
y = y(x)
}

のよう表します.\displaystyle{
y
} を,\displaystyle{
x
} の関数として具体的に書いたものが,その微分方程式の答えです.

 もし,微分方程式に,\displaystyle{
\frac{du}{dt}
} が登場しているのであれば,\displaystyle{
u = u(t)
} なので,\displaystyle{
u
} を,\displaystyle{
t
} の関数として具体的に書いたものが,その微分方程式の答えです.

 ただし,初期条件が不明の微分方程式では,答えは完全にきまらず,任意の値をとれる定数を含んでしまいます.そのような,任意定数を含む答えを一般解と呼びます.

何階 (何次?) 1階 (1次)とか,2階 (2次)とかは,微分方程式に含まれる導関数の最大の階数 (次数)です.例えば,

\displaystyle{
\frac{dy}{dx} + x y = e^{x}

}

は,\displaystyle{
\frac{dy}{dx}
}が階数1なので,1階微分方程式

\displaystyle{
\frac{d^2y}{dx^2} + \frac{dy}{dx} + 1 = 0

}

は,\displaystyle{
\frac{d^ 2y}{dx^ 2}
}が階数2で最大なので,2階微分方程式です.

同時と非同次 これは,微分方程式に余計なパーツ (私の勝手な呼び名)があるかどうかです.\displaystyle{
y = y(x)
} を求める微分方程式の場合,余計なパーツとは,\displaystyle{
y
} を含まない項です.つまり,\displaystyle{
x
} の式や,定数項です.この余計なパーツがなければ同次,あれば非同次です.

 1階の同次微分方程式は,\displaystyle{
f(x)
} を,\displaystyle{
x
} の関数として

\displaystyle{
\frac{dy}{dx} + f(x) \, y = 0
}

1階の非同次微分方程式は,\displaystyle{
f(x)
} と,\displaystyle{
g(x)
} を,\displaystyle{
x
} の関数として

\displaystyle{
\frac{dy}{dx} + f(x) \, y = g(x)
}

のような形になります.

線形と非線形 \displaystyle{
y = y(x)
} を求める微分方程式の場合, \displaystyle{
y
} と,\displaystyle{
y
}導関数 \displaystyle{
\frac{dy}{dx}, \frac{dy^ 2}{dx^ 2}, \cdots
} が,すべて1乗になっていれば「線形」です.2乗とか,3乗とか,非整数乗になっていれば「非線形」です.まずは,線形微分方程式の解き方をマスターしてください.

1階線形同次微分方程式を変数分離法で解く

 ということで,本題です.今回は1階線形同次微分方程式を解きます.つまり,\displaystyle{
f(x)
}を,\displaystyle{
x
}の関数として

\displaystyle{
\frac{dy}{dx} + f(x) \, y = 0
}

の形です.

 ここで紹介する秘儀「変数分離法」は,1階非線形微分方程式でも使えることがあります.ですが,ここでは形にこだわって話をしていきます.

 細かいことを抜きにして説明すると,解き方は,微分積分に変形していくだけです.

1.以下では,\displaystyle{
dy
}\displaystyle{
dx
} も変数とみなします.まずは, \displaystyle{
y
} のパーツと, \displaystyle{
x
} のパーツを,イコールをはさんで分離します.

\displaystyle{
\begin{align}
\frac{dy}{dx} + f(x) \, y &= 0 \\
\frac{dy}{dx} &= - f(x) \, y \\
\frac{1}{y} \, dy &= - f(x) \, dx \\
\end{align}
}

左辺は,\displaystyle{
y
} の式 \displaystyle{
\frac{1}{y}
}\displaystyle{
dy
} の積,右辺は,\displaystyle{
x
} の関数 \displaystyle{
f(x)
}\displaystyle{
dx
} の積になっています.これで,変数が分離できました.

2.次に,両辺を積分する技を使います.つまり,「両辺に \displaystyle{
\int
} を書いて」,「右辺にのみ定数項を加える (例えば,\displaystyle{
+C
} )」ようにします.ここまでの,計算を書けば,

\displaystyle{
\begin{align}
\frac{dy}{dx} + f(x) \, y &= 0 \\
\frac{dy}{dx} &= - f(x) \, y \\
\frac{1}{y} \, dy &= - f(x) \, dx \\
\int \frac{1}{y} \, dy &= - \int f(x) \, dx + C \\
\end{align}
}

となります.

 さらに,計算を進めれば解けます.ということで,準備のために,左辺のみ計算してみます (公式ですが).

\displaystyle{
\int \frac{1}{y} \, dy = \log |y|
}

この結果を使えば,全体の計算は,

\displaystyle{
\begin{align}
\frac{dy}{dx} + f(x) \, y &= 0 \\
\frac{dy}{dx} &= - f(x) \, y \\
\frac{1}{y} \, dy &= - f(x) \, dx \\
\int \frac{1}{y} \, dy &= - \int f(x) \, dx + C \\
\log |y| &= - \int f(x) \, dx + C \\
|y| &= \exp\left(-  \int f(x) \, dx + C \right) \\
y &= \pm e^C \exp\left(-  \int f(x) \, dx \right) \\
\end{align}
}

となります.最後に登場する \displaystyle{
\pm e^ C
} は,結局,定数になっているので,この部分をあらためて,\displaystyle{
C
} と置きなおすことにすれば,答えは,

\displaystyle{
y = C \exp\left(-  \int f(x) \, dx \right) 
}

です.

 変数分離をマスターするために,以下に例題を示しておきます.

練習問題

例題1

 次の微分方程式

\displaystyle{
\begin{align}
\frac{dy}{dx} + 3 \, y &= 0
\end{align}
}

の一般解を求めてみます.

\displaystyle{
\begin{align}
\frac{dy}{dx} + 3 \, y &= 0 \\
\frac{dy}{dx} &= - 3 \, y \\
\frac{1}{y} \, dy &= -3 \, dx \\
\int \frac{1}{y} \, dy &= - \int 3 \, dx + C \\
\log |y| &= - 3x + C \\
|y| &= \exp\left(- 3 x + C \right) \\
y &= \pm e^C e^{- 3x} \\
\end{align}
}

ここで,\displaystyle{
C
} は定数です. \displaystyle{
\pm e^ C
} を,あらためて \displaystyle{
C
} と書き直せば,答え (一般解)は,

\displaystyle{
y = C \, e^{- 3x} 
}

となります.

例題2

 次の微分方程式

\displaystyle{
\begin{align}
\frac{dy}{dx} + x \, y &= 0
\end{align}
}

の一般解を求めてみます.

\displaystyle{
\begin{align}
\frac{dy}{dx} + x \, y &= 0 \\
\frac{dy}{dx} &= - x \, y \\
\frac{1}{y} \, dy &= - x \, dx \\
\int \frac{1}{y} \, dy &= - \int x \, dx + C \\
\log |y| &= -\frac{x^2}{2} + C \\
|y| &= \exp\left(- \frac{x^2}{2} + C \right) \\
y &= \pm e^C \exp\left(-\frac{x^2}{2}\right) \\
\end{align}
}

ここで,\displaystyle{
C
} は定数です. \displaystyle{
\pm e^ C
} を,あらためて \displaystyle{
C
} と書き直せば,答え (一般解)は,

\displaystyle{
y = C \, \exp\left(- \frac{x^2}{2}\right) 
}

となります.

例題3

 \displaystyle{
\lambda
} を定数とするとき,次の微分方程式

\displaystyle{
\begin{align}
\frac{dx}{dt} - \lambda \, x &= 0
\end{align}
}

の一般解を求めてみます.

 微分方程式の基礎知識として,この形の微分方程式は必ず解けるようになってください.

\displaystyle{
\begin{align}
\frac{dx}{dt} - \lambda \, x &= 0 \\
\frac{dx}{dt} &= \lambda \, x \\
\frac{1}{x} \, dx &=\lambda \, dt \\
\int \frac{1}{x} \, dx &= \int \lambda \, dt + C \\
\log |x| &= \lambda x + C \\
|x| &= \exp\left(\lambda t + C \right) \\
x &= \pm e^C e^{\lambda t} \\
\end{align}
}

ここで,\displaystyle{
C
} は定数です. \displaystyle{
\pm e^ C
} を,あらためて \displaystyle{
C
} と書き直せば,答え (一般解)は,

\displaystyle{
x = C \, e^{\lambda t} 
}

となります.